9路道場仮設掲示板♪
【 戻る 】

・書き込みをする前に、掲示板のタイトルを確認してください。掲示板の趣旨と関係のない書き込みはおやめください。
・管理運営上の都合により、管理人はこの掲示板をたまにしか見に来ません。
・急用の方は、下記の「出張所通信」に、「どの掲示板に」「どういうことを書いたか」を簡単にお書きください。

◇出張所通信:http://bigchan.sakura.ne.jp/resbbs4.cgi


おなまえ
Eメール
タイトル
コメント
参照先
暗証キー (記事メンテ用)
荒らし対策キー (ここに下記のキーワードを入力してください。)
※空欄またはキーワード違いの場合、投稿は受理されません。※キーワードは不定期に変更されます。
◇現在のキーワードは「うさぎ年」です。

[96] ミニ小説(4) 投稿者:びっくにゃん 投稿日:2011/07/28(Thu) 23:27  

お気楽な冒険者達(4)

・・・
「ぷはぁ〜っ、やっぱりビールはうまいねぃ。」
「バルコニーを開放してビアガーデンにするなんて、ここの冒グルもなかなかやるじゃないか。」
「そうですにゃ、こんな蒸し暑い夜に、涼しいバルコニーでよ〜く冷えたビールをきゅ〜っと…冒険者やってて良かったですにゃ♪」
「キャット、お前のそれは、オレンジジュースだろ?」
「ひっく…いいか、キャット、人間その気になれば、何だってできるんだ。もちろん、猫もそうだぞ。」
「あ〜、また始まったよ、酔っぱらい騎士のありがた〜いお説教が。」
「ゴビリンさん、そのお話は、もう何回も聞きましたにゃ。」
「それにしても、ゴビリンさん、酔いが回るの早いねぃ。」
「そりゃそうだろ。あれ、ビールじゃなくて、ブランデーだから。」
「え〜、ブランデーを大ジョッキで飲んでるわけ? しかも、さっきから何杯目なのかな?」
「ひっく…いいか、キャット、人間その気になれば、何だってできるんだ。もちろん、猫もそうだぞ。」
「あ〜、また言ってるよ…あっ、お姉さん、焼き鳥3皿と、枝豆追加で。」
「サーモンフライもお願いしますにゃ。」
「キャットはまたサーモンフライか。俺は…ヘイ、お姉さん、俺は君が欲しい…いてぇっ!」
 ぎゅっ!
「はいはい、エロ神父さんは、この冷めた焼き鳥でも食べてるといいねぃ。」
「ひっく…いいか、キャット、人間その気になれば…」
「だから、ゴビリンさん、それはもう何回も聞きましたにゃ。」
「まったく、これだから、酔っぱらいは嫌だねぃ。まぁ、オレもそうなんだけど。」
「何でもできるって、人はどうがんばったって、空を飛べるわけじゃないんだし。」
「ひっく…おぉっ、人間その気になれば、空だって飛べるぞ。なぁ、キャット。」
「わたしは飛べませんにゃ。」
「ひっく…なんだぁ、キャット、最初から諦めてるのか? よし、私が飛ぶところを見せてやろう。」
「ぎゃははは! 飛べるわけないだろ、これだから酔っぱらいは困るぜ。まぁ、俺もそうなんだけどな、ぎゃははは!」
「ゴビリンさん、もうすぐ焼き鳥が来るから、おとなしく待ってるといいねぃ。」
「あっ、ゴビリンさん、あんまりそっちに行くと、危ないですにゃ…」
「いいか、キャット、見てろよ。騎士ゴビリン、飛びま〜す、た〜っ!」
「あ〜っ! ゴビリンさんっ!」
 ばきっ! どさっ…
・・・
「…なぁ、本当にそんなことがあったのか? 私はまったく覚えていないのだが…?」
「じゃぁ、その足は、いつそうなったのかな?」
「あの後、ゴビリンさんを医務室まで運んで行ったのは、俺たちなんだぞ?」
「ドクターに『何をやってるとこんなことになるんですか』って聞かれて、どう答えたらいいか困ったんですにゃ。」
「う〜ん、やっぱり何も思い出せない…まぁでも、仮にそうだったとしても、冒グルの施設内で起こった事故ってことで、公傷扱いには…」
「なりませんっ!」
 ちぇっ、やっぱり無理か…
「ま、しょうがないだろ。公傷がだめなら…ヘイ、そこの彼女、俺とベッドの上でゆっくり交渉…いてぇっ!」
 ぎゅっ!
「はいはい、寝言は寝てから言おうね。まったく、こんな時に…」
 ばらららっ…
 いつものパターンで神父の耳を引っ張ったシモンのポケットから、10本くらいのボールペンが落ちて床に散らばる。
「あっ、それ、事務局のボールペンじゃないですかっ! いつの間にっ!」
「シモンさん、そんなもの盗んでどうするんですにゃ? おこらりても知りませんにゃ。」
 ガリガリガリガリ…
「あっ、こらっ、キャット! そんなところでツメをとぐなっ!」
「にゃっ!」
 びくんっ!
「あ〜、傷がついちゃったねぃ。まぁ、別にいいけど。」
「良くないですよっ! まったく、何なんですかあなた方はっ!」
 う〜ん、こいつらのせいで、立場がどんどん悪くなっていくなぁ…
「じゃぁ、こうしましょう。ここに1件の依頼があります。」
 そう言いながら、モヨヨン事務局長は、1枚の紙を持ってきて、我々の前に置いた。
『町はずれの森に、最近出没するようになった、怪しい5人組について、調査してください。』
「そこに書いてある通りです。調査して、その結果を報告書にまとめて、明日までに提出してください。」
「えっ、明日までって…いくら何でもそれはちょっと…」
「いいですか、こちらとしては、今すぐにでもあなた方に出て行ってもらいたいっていうのが本音なんですよ? それを、こういう形でチャンスを与えてるんですから、ここはひとつ冒険者らしいところを見せてください、いいですね?」
「しかし、私は足を痛めていまして、他のメンバーもまだ何の準備も…」
「できなかったら、冒険者カードを返して出て行ってもらいますよ。い・い・で・す・ねっ!」
 こうして我々は、冒険者の地位を賭けて、その調査とやらにしぶしぶ出かけて行くことになってしまった。


[95] ミニ小説(5) 投稿者:びっくにゃん 投稿日:2011/07/28(Thu) 23:27  

お気楽な冒険者達(5)

「ここ…だよな?」
「町はずれで、木が何本も生えてるところっていったら、ここ以外ないねぃ。」
「ぱっと見た感じ、20本くらいしかないような気がするけどな。これ、本当に森か?」
「木が3本あれば、森って言うんですにゃ。」
「本当か、キャット? じゃぁ、木が2本並んでたら、それは林なのか?」
「そうですにゃ。」
「そんなわけないねぃ。キャットは適当なこと言ってるだけだねぃ。」
 町はずれの森らしい場所に来てみたものの、本当にこんなところに、怪しい5人組とやらがいるんだろうか? まぁ、下調べも情報収集もまったくしないで、ほとんど当てずっぽでここまで来た我々もどうかと思うが。よくある冒険物語だと、こういう場合、頼みもしないのに悪役の方から名乗り出てくれたりするのだが…
「ふははははははは…よくここまで来たな、愚かな冒険者ども!」
 …本当に出てきたよ。まぁ、こっちはその方が、手間が省けて楽なんだけど。いちおうこっちも礼儀として、お決まりのパターン通りの台詞を返すとするか。
「貴様らっ、何者だっ!」
 出てきたのはひとりだが、5人組という情報を既に持っているんだから、最初から複数形でいいだろう。どうせ、あとの4人もそのへんに隠れていて、すぐに出てくるんだから。
「オレは、この森の影の支配者、点鱈(てんたら)5兄弟の長男、点鱈っ! た〜っ!」
 影の支配者って…意味不明な自己紹介を済ませて、やっぱり意味不明な掛け声とともに、正面の木のてっぺんに飛び乗る…え〜と何て言ったっけ…そうそう、長男の点鱈とかいうやつ。
「同じく、次男の点足(てんたり)っ! た〜っ!」
 向かって左側の木の、長男よりちょっと低い位置に飛び乗る。
「同じく、三男の点樽(てんたる)っ! た〜っ!」
「同じく、四男の点垂(てんたれ)っ! た〜っ!」
 それぞれ、ポジションが決まってるみたいだ。さて、あとは五男か…
「そして、最後に控えしは、五男の点…あ〜〜〜…」
 ばきっ! どさっ! ぐしゃっ…
 本来のポジション…右側の木の低い位置に飛び移る前に、乗っていた枝が折れて、そのまま地面に叩きつけられる五男の…あ、まだ名前聞いてなかったっけ。
「あ〜っ、点太呂(てんたろ)っ!」
「駄目だっ、あの高さから落ちたんだ、恐らく即死だろう!」
「何ということだっ!」
「貴様らっ! 名乗りをあげる前に不意打ちとは、卑怯なりっ!」
 え…なんで?
「おいおい、何の話だ?」
「オレ達は何もしてないねぃ。」
「その人が、自分で勝手に木から落ちたんですにゃ。」
「貴様ら、もう許さんっ! いくぞっ、兄弟達っ!」
「お〜っ!」
 掛け声とともに、なんとか5兄弟…じゃなくて4兄弟の体から、光の線のようなものが空中に伸びる。ちょっと見ただけだと、魔力か何かの光に見えなくもないが、まわりがこれだけ明るいのに、線が目立ちすぎる気がする。実際のところは蛍光色の紙テープのようなものを使ってるんだろう。
「見るがいいっ、点鱈5兄弟究極奥義、死の五芒星っ!」
「これを見て、生きて帰った者はいないっ!」
「ここが貴様らの墓場だっ!」
「さぁ、さっさと死ぬがいいっ!」
 こっちの都合も考えず、勝手なことを言いまくりやがる、点鱈4兄弟…これで5人揃っていたら、きれいな星型になるんだろうが、ひとり欠けた4兄弟が空中に描いた図形は、ひん曲がったフォークにも、大型鳥類の足跡にも見える。これなら、いくら凝視しても、死ぬようなことはないだろう。
「で、次は?」
「その後、どうするのかな?」
「それで終わりなら、シッポ巻いて帰るといいにゃ。」
 こいつらもこいつらで、黙って見てればいいのに、無駄な挑発なんかするし…
「ちっ、しくじったか…兄弟達、ここはひとまず退却して、陣形を立て直すぞっ!」
「お〜っ!」
 こういう事態になっても、息がぴったり合ってるあたり、さすが兄弟と褒めておこうか。
「貴様らっ!」
 そのまま帰ると思ったのに、長男がいきなりこっちを向いて、我々に向かって叫ぶ。
「いいか、明日の正午、貴様ら4人だけで、ここに来い。いいか、正午だぞ、遅れるなよっ! 明日が貴様らの命日、そしてここが貴様らの墓場だっ! さぁ、兄弟達、行くぞっ!」
「お〜っ!」
 ひゅんっ…
 消えた!? …と驚いたふりだけしてやるか。掛け声とともに、突然我々の前から姿を消した4兄弟。瞬間移動の術を使ったように見えなくもないが、実際は木の幹の裏側にでも、素早く回り込んだだけだろう。こいつら、ひょっとして、実力のかけらもない、ただのコケ脅し兄弟じゃないのか?
「これで任務完了だな。」
「俺達、何もしてないけどな。」
「じゃ、報告書はオレが書いて、出しておくねぃ。」
「じゃ、帰って、またサーモンフライ食べるにゃ♪」
「キャット、さっき食べたばっかりだろ? 食堂の夜の営業は、午後6時からだぞ。」
「え〜っ、そんなに待つのにゃ? にゃんか、働いたら、おなかすいちゃったにゃ…」
「だから、お前、何もしてないだろ? まぁ、俺達もそうなんだけどな、わははは!」
 そんなバカな話をしながら、我々4人はへっぽこ4兄弟の森を後にした。


[94] ミニ小説(6) 投稿者:びっくにゃん 投稿日:2011/07/28(Thu) 23:26  

お気楽な冒険者達(6)

 ポ〜ン てんっ ころころ…
「にゃっ♪」
 だだだだ… さっ だだだだ…
「はいにゃ♪」
「よし、もう1回いくぞ、それっ!」
 ポ〜ン てんっ ころころ…
「にゃっ♪」
「お〜い、ゴビリンさん、そろそろ時間だねぃ。」
「よし、キャット、そろそろ行こうか。」
「はいにゃ♪」
 ♪ピンポンパンポ〜ン
「午前11時になりました。只今より、食堂の…」
 だだだだ…
「はいはい、いらっしゃいませ。ゴビリンさんたち、今日もお早いですね。」
「ウリボーさん、今日の日替わりは?」
「今日はブラックサバスとキノコの包み焼きですよ。」
「じゃ、私はそれで。」
「オレもそれでいいねぃ。」
「包み焼きもいいけど、俺は…ヘイ、そこの彼女、俺と一緒に毛布に包まれて…いてぇっ!」
 ぎゅっ!
「はいはい、おなじことばっかりやってないで、神父さんも日替わりでいいんだねぃ。」
「わたしはサーモンフライですにゃ。」
「そういえば、ゴビリンさん、また事務局長が呼んでましたよ。」
「え、何の用だろう…」
「それは知りませんけど、何だかものすごく機嫌悪そうでしたよ。食べ終わったら…っていうより、今すぐにでも行ったほうがいいんじゃないですか?」
「依頼は昨日ちゃんと達成したし…シモン、報告書はちゃんと出したのか?」
「あれからすぐに出したねぃ。」
「じゃぁ他に何が…私は何の心当たりもないんだが、お前ら何か思い当たることはあるか?」
「別に何もないねぃ。」
「俺もねぇよ。」
「わたしもですにゃ。」
「ま、いっか。後で気が向いたら事務局へ顔を出すってことで、まずはメシにしようぜ。」
 そんなことを言いながら、我々はいつも通りランチを済ませた後、ドリンク片手に無駄話に花を咲かせた。

「ところで、ゴビリンさん、そろそろ行かなくていいんですかにゃ?」
 さっきまでバカな話をして笑っていたキャットが、突然そんなことを言い出したのは、12時をすこし回った頃だった。
「いいよ、まだ行かなくても。夕方ごろ、私がひとりで事務局に行って、何の用事か聞いてくるから。」
「そうじゃにゃくて、昨日の…ほら、なんとか兄弟の森に、12時までに行くことになってましたにゃ?」
「なんで?」
「なんでって…ゴビリンさん、もう忘れたんですかにゃ? 昨日、長男のなんとかさんが、帰り際に言ってたじゃにゃいですか。」
「あれは、あいつが勝手に言ったことだろ? 私は、行くとは一言も言ってないぞ?」
「オレも行く気はまったくないねぃ。」
「俺も面倒くさいから、どうでもいいやあんな奴ら。」
「にゃっ! いいんですかにゃ、そんなことで?」
「あのな、キャット、よく考えてみろよ? 我々が受けた依頼は『怪しい5兄弟の調査報告』だろ?」
「そうですにゃ。」
「だから、昨日調査に行って、シモンが報告書を提出した時点で、依頼完了だ。その後のことは知らねぇよ。」
「不運な事故で五男が死んだとか、残った4兄弟がその後何を言ったとか、そんなことは向こうの都合だねぃ。」
「俺達の知ったことじゃねぇよ。いいんだよ、ほかっとけば。」
「いいんですかにゃ、そんなことで? 冒険者としてのつとめっていうか、にゃんていうか…」
「だったら、キャット、お前ひとりであいつらを成敗しに行くか?」
「え…わたしは…その…ひとりじゃ不安っていうか、どっちかっていうとめんどくさいっていうか…にゃぁ…」
「じゃぁ、オレ達も同じだねぃ。」
「いいんだよ、ほかっとけば。」
「いいんですかにゃぁ…」
 こういうわけで、我々パーティの総意として、4兄弟に関する件はこれで終わりになった…はずだった…


[93] ミニ小説(7) 投稿者:びっくにゃん 投稿日:2011/07/28(Thu) 23:25  

お気楽な冒険者達(7)

「ゴビリンさん、困りますねぇ…」
「え、何がですか?」
 ウリボーさんから聞いてはいたが、事務局長のモヨヨン氏は本当に心の底から不機嫌そうだった。食堂では、私ひとりで行くと言ったが、どうせこいつら暇なんだし、4人で行った方がいいんじゃないかってことで、パーティ全員で事務局に顔を出したのだが…
「何がですか、じゃないでしょう。依頼の件は、どうなったんですか?」
「それは、シモンが報告書を出したって…なぁ、シモン?」
「昨日、ここのカウンターの…そのへんに置いておいたねぃ。」
「これですね?」
 ばんっ!
 モヨヨン氏は1枚の紙きれを取り出して、カウンターの上…我々の目の前に叩きつける。
『報告書:へんな5兄弟が、4兄弟になったねぃ。終わり』
「これが報告ですか、これが?」
「おい…シモン…さすがにこれはまずいだろ?」
「何がまずいのかな? 事実をありのままに伝えるのが報告だねぃ。」
「それは、そうなんだけど、ほら、もっといろいろ書くことが…」
 シモンにそう言いながら、私自身、頭の中で昨日の状況を思い出してみる。まず、我々4人で森へ行った。5兄弟の長男が出てきた。続いて3人が出てきた。五男は木から落ちて死んだ。なぜか、その事故は我々のせいにされた。長男が何か勝手なことを言った。4兄弟は帰って、我々も帰った。今日の昼すぎ、後のことは知ったことじゃないと、パーティの総意で決まって、現在に至る。
「やっぱり、他に報告すべきことは、ないようだな。」
「だから、報告書は、これでいいんだねぃ。」
「俺もそれでいいと思うぞ。」
「わたしも、めんどくさいから、それでいいですにゃ。」
「いいわけないでしょうっ!」
 あ〜、怒った…でもなぁ、怒られたって、事実は事実なんだし…
「とにかくっ、もう1回、ちゃんとした調査をして、ちゃんとした報告をしてくださいっ!」
「ちゃんとしたも何も、あいつらに関しては、これ以上のことは…」
「あなた方も、冒険者の端くれでしょう? 真面目に調査して、その結果、近隣住民や通りすがりの旅人に危害が及ぶようなら、責任をもって成敗してきてくださいっ! そうでなかったとしても、このまま放置しても問題ないという証拠を揃えて、責任をもって報告してくださいっ!」
「責任って…あいつらのことで、我々には何の責任も…」
「できなかったら、冒険者カードを返して出て行ってもらいますよっ! わかったら、今すぐ出発してくださいっ!」
 うっ…それを言われると…仕方ない、しぶしぶ出かけるか…
「しょうがないな。お前ら、また昨日の森へ行くから、出発の準備を…」
「その必要はないみたいだねぃ。」
 え、必要ないって…行かないと冒険者の特権が…
「お〜い! 昨日の冒険者達、出て来〜い!」
「我ら4兄弟を愚弄するとは、不届き千万っ!」
「我々は、約束通り、正午から今まで、あの森でお前達を待っていたんだっ!」
「待つこと4時間、腹も減るし、蚊に刺されまくるし、大変だったんだぞっ!」
 窓から外を見ると、正門の前で昨日の4兄弟が何やらわめき散らして、守衛さんに止められている…あいつら、こんなところまで押しかけて来やがったよ…
「お〜い! どうした? 出て来〜い!」
「冒険者ともあろう者が、敵に背中を見せるのかっ!」
「我ら4兄弟の真の恐ろしさ、今こそ思い知らせてやるっ!」
「わかったら、さっさと出て来〜い!」
「ほら、皆さん、ご指名ですよ。行ってください。」
 モヨヨン氏…冷めた表情でさらっと言われても…
「なぁ、お前達、どうする?」
「オレはあんまり乗り気じゃないねぃ。」
「俺は、あんな奴らよりも、かわいい女の子…ちぇっ、今日はいないのか。」
「わたしは、早くサーモンフライ食べたいですにゃ。」
「…こんな感じなんで、ここはパーティの総意として、行かないということで…」
「いいから、行・っ・て・く・だ・さ・いっ!」
 ちぇっ、やっぱりこういう羽目になるのか…めんどくさいなぁ…


[92] ミニ小説(8) 投稿者:びっくにゃん 投稿日:2011/07/28(Thu) 23:24  

お気楽な冒険者達(8)

「じゃ、こっちの先鋒は、盗賊のオレ、カー・シモンが出るってことで、そっちは誰が出るのかな?」
 さっと前に出たシモンが、4兄弟チームに声を掛ける。ここは冒グルの敷地内にある屋外訓練場。さすがに正門の前で戦いを始めるわけにはいかないから、ここを使わせてもらって、勝ち抜き戦形式の試合をすることになった。この訓練場は、一辺がだいたい20メートルくらいのほぼ正方形で、足下はかたい土だが、まわりは白っぽい石畳で囲んである。まぁ、試合場としては申し分ないだろう。いつの間にか、石畳のまわりに暇人たち…もとい、研究熱心な冒険者達が集まってきて、ちょっとした人だかりになっていたりする。その人だかりの端にはモヨヨン氏…わざわざ見張りに来てくれなくてもいいんだけどなぁ…
「サンドイッチに冷たいジュース、ビールにおつまみはいかがですか〜♪」
 あ〜、ウリボーさん、出張営業なんかしなくても…
「最初はこのオレだっ! 点鱈4兄弟次男・点足っ!」
 こいつが向こうの先鋒の次男か。顔がよく似てるし、こっちは真剣に覚える気なんか最初からないから、こうして名乗ってくれないと見分けが付かないが。
「それじゃ、モヨヨン氏に審判をやってもらうってことで、まずは大まかなルールを…」
 ぶんっ! ぱららっ…
 いきなり振り下ろされた剣を、しかしシモンは紙一重のところでかわす。シモンの前髪が3〜4本、風に舞いながらゆっくりと落ちる…紙一重というより、これは髪一重と言った方が適切かもしれない。
「危ないねぃ、まだこっちの話が終わってないのに。それに、その剣、本物じゃないのかな?」
 何事もなかったかのように、さらっと言ってのけるシモン。このあたり、さすが盗賊といったところか?
「何を今さら。我々にとって、試合とは死合い、すなわち殺し合いだっ! ならばこれは決して不意打ちなどではなく、立派な先制攻撃だっ!」
「ほう、そうすると、ここから先は、文字通り命の取り合いになるんだけど、いいのかな?」
「取り合いではない。死ぬのは貴様だけだっ!」
「それは、どうかねぃ?」
「この国では、死体さえ残っていれば、教会で…そうだな、レベル20以下なら一律50ゴールドの祈祷料を払えば復活できるぞ。貴様、どうせたいしたレベルじゃないんだろう?」
 その自信がどこから来るのかは知らないが、無駄口を叩いている間に、シモンがナイフを取り出したことには気付いていないらしい。
「それなら安心だねぃ。それじゃ、次はこっちの番ってことでっ!」
 ひゅんっ!
 シモンが投げ放ったナイフは、しかし、次男とやらの向かって右側に大きくそれる。
「ふははは、馬鹿め、どこを狙ってい…」
「ここだねぃっ!」
 ざっ! すぱっ! ごろん…
 無駄口を途中で遮られた次男の首が、地面に転がる…これがシモンの得意とする戦い方だ。簡単に解説すると、シモンはまず始めに、2本のナイフを手に仕込んでいた。そして、大袈裟なモーションで第1のナイフを、わざと狙いを外して投げ放つ。相手は反射的に、ナイフの軌道を一瞬目で追うだろう。その瞬間に生じた反対側の死角に素早く走り込んで、第2のナイフで相手の首を切り落とす。まぁ、事情を知っている私だから、こうした解説もできるのだが、実際には1秒か、長くて2秒の出来事。やられた相手はもちろん、最前列で見ているギャラリーも、何が起こったのか理解できなかっただろう。無論、シモンの類まれなるナイフの腕前と目にも止まらぬダッシュの速度、そして死をも恐れぬ度胸を併せ持っていなければ、こんな芸当は不可能。決して誰にでもできることではない。まぁ、何はともあれ、まずは我々の1勝。


[91] ミニ小説(9) 投稿者:びっくにゃん 投稿日:2011/07/28(Thu) 23:24  

お気楽な冒険者達(9)

「あ〜、死んじゃったねぃ。でも、教会で50ゴールド払えば復活できるんだから、別にいいかな。さて、次に教会へ行きたいのは誰かな?」
 新しいナイフ…1本に見えるが実際は2本のナイフを取り出しながら、シモンが尋ねる。
「ちょっと待てっ! 貴様は今勝ったんだから、もう終わりだっ! 次の奴を出せっ!」
「え〜、これって、勝ち抜き戦だったよぉな…それに、殺し合いなら、オレまだ死んでないから、戦い続けてもいいよぉな…」
「我々の言う勝ち抜き戦とは、勝った者も抜けるという意味だっ! さぁ、盗賊は引っ込んで、次の奴を出せっ!」
「ちぇっ、しょうがないねぃ。」
 何だか、知らない間にルールが改正されたようだが、向こうがそういうつもりなら仕方ないのかもしれない。それを察したのか、まだ納得していないのか、シモンは複雑な表情を浮かべながら、ゆっくり戻って来た。さて、こちらの2番手は…
「は〜い、わたし、行きますにゃ♪」
「ちょっと待てぇっ!」
「お前、今の、見てただろうっ!」
「キャットがまともに戦えるとは思えないねぃ。死にに行くようなものだねぃ。」
 我々としては、全力で止めたつもりだったんだが…
「大丈夫ですにゃ。こう見えてもわたしは火炎系の攻撃魔法が使えるんですにゃ。魔法猫仲間には『火猫キャット』って呼ばれてますにゃ。じゃ、いきますにゃ〜♪」
 火炎系の攻撃魔法? そんな話、初めて聞いたぞ? 魔法猫仲間って誰だ? それに「火猫キャット」って何だよ? 頭に浮かぶ数パターンのツッコミが、言葉になるより早く、訓練場の中央へとことこ進み出るキャット…本当に大丈夫なのか?
「何だ、次はチビの猫娘か。じゃぁこっちはオレで十分だろ。点鱈4兄弟四男・点垂っ!」
 こいつも剣士か…こっちからキャットが出たのを見た上で、「オレで十分だろ」ってことは、兄弟の中でこいつが一番弱いってことか? あ〜、昨日木から落ちて死んだ五男のなんとかっていう奴が最弱か。どうやら、年の順がそのまま強さの順だと見て、ほぼ間違いないだろう。
「じゃ、わたしから行きますにゃ。ファイヤー・ボールにゃ♪」
 へろっ、ふよふよふよふよ…
 キャットが振りかざした、杖というより指揮棒のようなものの先から、火の玉が…出たには出たんだが、これは一体何だ? ミニサイズの火の玉らしい物体が1個だけ、空中をゆっくり進んでいく…例えて言うなら、ホオズキの実を持った透明人間が歩いていくような、そんな感じだ。
 ふよふよふよふよ…
「ふははは、何だそれはっ! それが攻撃魔法のつもりか? 笑わせるなっ!」
 余裕の笑みどころか、本気で嘲笑の声をあげる四男。その間にも、火の玉はゆっくり進んで、四男の顔の前、だいたい20センチくらいのところまで近づいている。恐らく、着弾する直前に身をかわして、そのまま反撃に移るつもりだろうが…
「ふぁっ…くしゅんっ!」
 ピカッ! どっか〜ん! ぶすぶすぶす…
 一瞬、ものすごい閃光があたりを支配し、私の…いや、恐らくここにいる全員の目がくらんだ。その直後、これまたものすごい爆音が轟いて、私の視力が戻って来た時、そこは四男が…正確には、さっきまで四男だった物体が黒こげになっていた。これは一体、何が起こったのだ…?
「にゃははは、くしゃみしたら、そのはずみで魔力が暴発しちゃいましたにゃ♪」
 ぽか〜ん…という音が本当に聞こえて来そうな空気があたりを包んだ。くしゃみで魔力が暴発? それって、一歩間違えば、我々にまで被害が及んだ可能性もあったってことか? まぁ、そのあたりのことは、あとでキャットを締め上げながらゆっくり尋問することにして、何はともあれこれで2勝。


[90] ミニ小説(10) 投稿者:びっくにゃん 投稿日:2011/07/28(Thu) 23:24  

お気楽な冒険者達(10)

「最後は俺か。そっちは、確か長男と三男が残ってたな? どっちが出るんだ?」
 意味もなくメイスを振り回しながら、ゆっくり歩み出る神父。
「最後ではないっ! これから3戦目だっ! 次はリーダーのオレが出るぞっ! 点鱈4兄弟長男・点鱈っ!」
 最後ではないっていうのが、どういう意味なのかよくわからないが、とにかく第3戦は神父と長男の戦いらしい。剣を持っているところを見ると、こいつも剣士か。ただ、こいつの場合、他の3人と違って、頭に兜をかぶっている。あの色は、銅の兜といったところか? 戦士系の冒険者達に愛用されている、いわゆる普及品で、そのへんの防具屋で20ゴールドくらいで買えるものだろう。
「弟達を倒していい気になっているようだが…」
「大いなる神よ、邪悪なる者どもに…」
「…オレが相手では、これまでのようにはいかぬぞ…」
「…裁きの雷を…」
「…って、おいっ! 人の話を聞いて…」
 ゴンッ! ばたっ!
 無駄口を叩いている間に、振り下ろされたメイスを頭に受けて、そのまま倒れて動かなくなる長男。兜の上から一発殴られたくらいで倒れるのか、という疑問はごもっとも。見たことをそのまま述べればこうなるのだが、ここは事情を知っている私がわかりやすい解説をすることにしよう。今の神父の攻撃は、メイスによる打撃ではなく、攻撃魔法なのだ。ホーリーサンダーという、その名の通り聖属性と雷属性を併せ持つ魔法で、本来は魔法を放った本人のまわりに、だいたい10本くらいの雷が落ちる、複数攻撃型の魔法だ。威力が分散する分、敵1匹に与えるダメージはそれほど大きくない。しかし、神父の場合、ちょっと変則的な使い方をしていて、本来なら手から放たれてまわりに分散するはずの魔力は、メイスの柄を通って頭のトゲの特定の1本に向かって流れる。そして、柄と頭の位置関係から、このメイスは普通に持ってまっすぐ振り下ろした時、その1本のトゲが真下を向くようになっている。つまり、この攻撃を受けた相手は、約10本分の雷を頭上の一点に受けることになるわけで、しかも今回の場合、長男がかぶっていたのは素晴らしい電導率を誇る銅の兜。革の兜でもかぶっていれば、まだ何とかなったかもしれないが…まぁ運が悪かったと思ってくれ。
「これで、オレ達の全勝だねぃ。」
「じゃ、そういうことで。」
「仲間の死体を片付けて、さっさと帰ってくれ。」
「さいにゃら〜♪」
「こらこらっ! まだ終わってないぞっ!」
 我々の当然の要求に、なぜか本気で怒り出す…え〜っと、残ったのは三男だったかな?
「最後はオレだっ! 点鱈4兄弟三男にして、真のリーダー・点樽っ!」
 最後はオレ? 真のリーダー? この期に及んで何を言い出すんだこいつは?
「そこの鎧の騎士っ! いざ尋常に勝負っ! おぉっ、そうか、ケガで動けないのかっ! ではオレの不戦勝だなっ!」
 最初からずっと車椅子に座っている私が、試合に出られないことくらい、わかりそうなものだと思うが…?
「そうかそうか、オレの不戦勝か。ちなみに、この第4試合の勝ち星は、5勝分として数えることになっているからなっ! 従って、総合成績は我々の勝ちということになるっ!」
 お笑い系のクイズ番組で、最後の問題だけポイント10倍とかいうのは、まぁお約束のパターンだが…
「お前なぁ…いくら何でもそれは…心の広い私でも、さすがにあきれたぞ?」
「いいから、死体持って、黙って帰れよ。」
「オレ達、いつまでもお前の相手してるほど、暇じゃないんだねぃ。」
「何を言うかっ! これは試合だっ! 試合場に立てない者は負けだっ! ケガだか何だか知らぬが、そんなものは貴様らの責任だっ! オレの知ったことではないっ!」
 はぁぁ…困った奴だ…どう言えばおとなしく帰ってくれるんだか…
「あの〜、お取り込み中、申し訳にゃいんですけどにゃ。」
 何だか面倒くさそうに、キャットがそんなことを言い出す。まぁ、私も面倒くさいと思っていたが。
「要するに、ゴビリンさんが試合に出て、その人をやっつければ、にゃにも問題にゃいんですにゃ?」
「それはそうなんだけどな、それができないから、こんなわけのわからん展開になってるんじゃないか。」
「わたし、回復魔法が使えるんですけど…」
 なにっ!?
「わたし、さっきは火の魔法を使いましたけど、本職は聖魔術師なんですにゃ。魔法猫仲間には『回復猫キャット』って呼ばれて…」
 ごちんっ!
「ぎにゃぁ! にゃにするんですかにゃ…」
「やかましいっ! そういうことはもっと早く言えっ!」
「試合が始まる前に言えよっ!」
「っていうか、ゴビリンさんがケガした日に言って欲しかったねぃっ!」
 ポカポカポカポカ…
「びにゃぁぁ…ごめんにゃぁぁ…」


[89] ミニ小説(11) 投稿者:びっくにゃん 投稿日:2011/07/28(Thu) 23:23  

お気楽な冒険者達(11)

「ぐすっ…それじゃ、始めますにゃ…」
 私の正面に立ったキャットが、両手を胸の前で合わせて、それをゆっくり広げていく。
 ぽぅっ…
 キャットの手のひらの間に、淡いピンクの光が現れて、私の足に向かってゆっくり進んでくる。何だか、足が温かくなってきたような…
「これを…そうですにゃぁ、だいたい2時間くらい続ければ、歩けるくらいにはなると思いますにゃ。」
 おいおい、そんなにかかるのか? あいつ、「時間切れで不戦勝」とか言い出すんじゃないのか?
「なぁ、キャット、もうちょっと早くできないのか? できれば1分くらいで完治させて欲しいんだが?」
「そんなの無理に決まってますにゃ。わたしの回復魔法は、少しずつゆっくり効くんですにゃ…」
「あ〜、オレ、いいもの持ってるねぃ。」
 そう言いながら、シモンが取り出したのは…おい、それ、食堂のテーブルにあった胡椒だろ? いつの間に盗んで来たんだ?
「これで、キャットにくしゃみさせて、魔力をアップさせるねぃ。」
 くるくる…
 それはいい考えかもしれないが…って、その胡椒のフタは、くるくるじゃなくて、上のところだけパカっと開けるタイプ…
 さっ…どばっ!
 ビン1本分の胡椒がキャットの顔を直撃する。あ〜、遅かったか…
「ぎにゃぁっ! くしゅんっ! くしゅんっ! くしゅんっ! げほっ! げほごほげほごほ…」
 濃いピンクのまぶしい光が、私の足だけでなく体全体を包む。おかげで私は完全回復したが…キャットは死にそうだった…
「さて、そろそろ始めようか…」
「まっ、待てっ! 貴様は不戦敗のはず…まさか立ち上がってくるとは…こちらは心の準備というものが…」
 どうやら、今頃になって怖じ気づいたようだが、そんな戯言に貸す耳は持ち合わせていない。
「安心しろ。私は誇り高き騎士だ。無益な殺生は好まない。貴様らが何を考えようとそれは勝手だが、私はあくまで試合は試合と考える。死ぬようなことはないから心配するな…モヨヨン氏、審判お願いします。」
 無言で歩み出るモヨヨン氏。訓練場の真ん中に立って、両手を内側に向かってさっと振る。それが、試合開始の合図だった。
「行くぞっ、でやぁぁ…」
 バシッ! がしゃんっ! ばっ! ぶんっ! どさっ! がしっ! ちゃっ!
「まっ…まいったっ!」
「一本っ、それまでっ!」
 モヨヨン氏の声が響き渡り、試合は終わった…今の戦いを簡単かつ的確に表現するとこうなるのだが、これじゃ身も蓋も底もないから、私が解説しよう。まず、気合いだか空元気だか知らないが、三男は叫び声を上げながら、こちらに向かって突進してきて、剣を振り下ろす。その時、私はまだ剣を抜いていない。振り下ろされた剣の柄を篭手で叩いて、剣を地面に落とす。そのまま相手の腕を取って、相手が前に出ようとする力と私の腰の回転をうまく合わせて、投げるというより相手の体を地面に落とす。そのままの勢いで、地面に組み伏せて、そこで初めて腰の剣を抜いて相手の喉元に突きつける。最初に宣言した通り、私は誇り高き騎士だ。剣術のみならず、このような体術も心得ている。力まかせに武器を振り回すだけが戦いではない。見た目は地味だがこれも立派な戦術、安全かつ確実な勝ち方だ。


[88] ミニ小説(12) 投稿者:びっくにゃん 投稿日:2011/07/28(Thu) 23:22  

お気楽な冒険者達(12)

「ふははははははは…今日のところは、我々の負けということにしておいてやろう。だが、忘れるなっ! 近いうちに、我ら兄弟は必ずや貴様らの…」
「はいはい、わかったから、とっとと帰ってくれないか?」
「そこに荷車があるから、仲間の死体を載せて運ぶといいねぃ。」
「教会は、正門を出て、最初の曲がり角を右に曲がって、しばらく進むと左手に見えるから。」
「じゃ、さいにゃら〜♪」
 ろくでもない奴らだったが、最後くらいは我々4人で温かく見送ってやることにした。
「ほら、サンドイッチ、余ったから、敢闘賞ってことで。」
「荷車は、後でちゃんと返しに来てくださいね。」
 サンドイッチを渡すウリボーさんと、荷車が返ってくるかどうか心配しているモヨヨン氏。まぁ、微笑ましい光景ということにしておこう。
「ふははは…また来るぞっ!」
「いや、来なくていいから。」
「いや、来るっ! 今日の借りを返すまでは、何度でも…」
「だから、来なくていいねぃ。」
「またどこかの森に潜んで、兄弟仲良くいつまででも遊んでろ。」
「さいにゃら〜♪」
 ガラガラガラガラ…
 まだ何か言いたそうな顔をしながら、三男のなんとか君は、ひとり寂しく荷車を引いて、冒グルの正門から出ていった…


[87] ミニ小説(13) 投稿者:びっくにゃん 投稿日:2011/07/28(Thu) 23:22  

お気楽な冒険者達(13)

 ポ〜ン てんっ ころころ…
「にゃっ♪」
 だだだだ… さっ だだだだ…
「はいにゃ♪」
 あれから3日。また暇になってしまった私は、今日もボールを投げてキャットと遊んでやる。
 ♪ピンポンパンポ〜ン
「午前11時になり…」
 だだだだ…
「あっ、ゴビリンさんたち、また事務局長が呼んでましたよ。」
「えっ、何の用だろう…」
 冒険者としてのつとめを立派に果たした我々が、なんで今ごろ事務局に呼び出されるのか…他の3人は知らないと言っているし、もちろん私も心当たりはない。
「ゴビリンさん、そろそろ出発の準備はできましたか?」
「えっ、何がですか?」
 モヨヨン氏の口から何の前触れもなく飛び出した「出発」という言葉に、戸惑いの色を隠せない我々。
「もうケガも治ったんだし、そろそろ冒険に出てくださいね。ほら、良さそうなのがいろいろ届いてますよ。」
 どんっ!
 そう言いながらモヨヨン氏がカウンターに置いたのは、冒険案内書や依頼書各種、厚さからして、100枚以上はあるだろうか。
「いえ、そんな、いきなりそんなこと言われても、我々はまだ何の準備も…」
「ゴビリンさん、まさか、また何十日もここに居座ってぐうたら三昧を続けるつもりではありませんね?」
 ぎくっ!
 ぐうたら三昧というわけではないが、正直なところ、これまで通りここでゆっくりさせてもらうつもりではいた。ここにいれば、食べるものと寝る場所には困らないし、それは我々冒険者に等しく与えられた権利だし…それが何日なのか、何十日なのか、そんなこと考えたこともなかった…
「それは…その…我々4人でゆっくり話し合って、そのうち時期をみてゆっくりと…」
「ゆっくりしてもらっては困るんですよ。こないだも言ったと思いますが、他の冒険者達から苦情が殺到して、事務局としても対応に困っているんですよ。あなた方が占拠している仮眠室、できれば今日中に明け渡してください。」
「今日中!? そんな、急に言われても…なぁ、お前たち?」
「オレは、あの部屋気に入ってるから、できればずっと住みたいねぃ。」
「俺もその方が…ヘイ、そこの彼女、俺と一緒に仮眠室に住んでみないか…いてぇっ!」
 ぎゅっ!
「はいはい、ひとりで住むといいねぃ。」
「わたしも、今のままがいいですにゃ。毎日ゴロゴロして、サーモンフライ食べて、またゴロゴロして…」
「いいから、出発の準備をして、なるべく早く明け渡してくださいっ!」
 まぁ、こんなこと言ってたら、追い出されても仕方ないか…
「しかし、モヨヨン氏、仮にも我々は、ここの冒グルに襲来してきた4人組を撃退したのですから、英雄とまでは言いませんが、功労者のようなものということで…」
「あの4人は、あなた方が連れてきたようなものでしょう? こちらとしては、いい迷惑でしたよ。」
「まぁ、そんなこと言わずに、できればその、特例と言いますか、冒グル側から我々への配慮のような形で、今まで通り甘い汁を…いや、その、冒険者として様々な恩恵に…」
「いいから、さっさと準備をして、出・て・行・っ・て・く・だ・さ・い・っ!」
「はぁ…わかりました…こいつらを説得して、なるべく早く何とかします…」
 ちぇっ、結局こういうことになるのか…
「そうそう、ゴビリンさん、4人を撃退したということは別にして、最初の調査については、あれは冒険者支援グループからの依頼ですから、いちおうそれを達成したということで、わずかばかりの謝礼が出ています…」
 おっ、謝礼がもらえるのか♪
「…ですが、それは仮眠室の利用料と修繕費、それに皆さんの食費ともろもろの雑費、それらと相殺ということで、今回は0ゴールドということでお願いします。」
「えっ、どうしてそうなるのですか…? 冒険者の権利として、宿と食事は無料で提供されるはずで、雑費とかいうのもまぁ必要経費のようなもので…」
「40日以上もぐうたらして、我々や他の冒険者達にさんざん迷惑を掛けて、まだそんなことを言ってるんですかっ!」
「そんなこと言われても…それに、さっきさらっと言われましたけど、修繕費って何ですか?」
「先ほど、状況確認のため仮眠室の様子を見に行ったら、2号室の壁とドアに、なんだかすごいひっかき傷がたくさん付いているんですよ。どういう使い方をしていると、あんなになるんですか。」
「ひっかき傷って…2号室はキャットの部屋…あ〜っ、キャットっ!」
 びくんっ!
「お前っ! 壁でツメをとぐなって言っただろうっ! 修繕費まで請求されるなんて、どんな傷を付けたんだよっ!」
「それは…その…傷っていうより…削り節みたいになってるところもあって…にゃぁ…」
 ごちんっ!
「ぎにゃぁ!」
「それじゃ、夕方には仮眠室の清掃作業を始めますから、荷物を片付けて、できるだけ早く出発してください。」
「あの…できればもうちょっと猶予を…その…できれば1週間か1ヶ月か…その謝礼も出発の準備金のようなようなものとして…」
「こちらから出せるお金は1ゴールドもありません。逆に追加料金を請求したいくらいですよ。いいから、荷物だけ持って、出・て・行・っ・て・く・だ・さ・い・っ!」


[1] [2] [3] [4] [5] [6] [7] [8] [9] [10] [11] [12] [13] [14]

処理 記事No 暗証キー
- LightBoard -