9路道場仮設掲示板♪
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[116] ミニ小説(9) 投稿者:びっぐにゃん 投稿日:2012/04/27(Fri) 22:29  

武器の店・うり屋(9)

「よう、獣人さんよぉ。あいかわらず、こんなシケた店やってやがるのか?」
「シケた店で悪かったですね。見物だったら、荷おろしの邪魔にならないところでお願いしますね。」
「うり屋さん、何ですか、こいつ?」
「あ〜、気にしないでください。どこの町にもひとりくらいはいる、ただ面白いだけの人ですから。あっ、その箱は、こっちに…」
 あいかわらず意味不明な言いがかりを付けようとする点鱈。まるで相手にしようともせず、てきぱきと荷おろしの作業を進めるウリボーさんと問屋さん。
「ほら、邪魔だって言われてますにゃ。またケガしにゃいうちに、シッポ巻いてとっとと帰るといいですにゃ。」
 あ〜、キャット、またそんな挑発を…
「何だと、この猫っ! 調子に乗ってんじゃねぇぞっ!」
「にゃぁ〜〜…にゃぴっ!」
「へろ〜…はらひれ〜…」
 あ〜、またか…
「ふははははははは…見ろっ! これが、オレの新しい剣だっ! どうだ、すごいだろうっ! これは伝説の勇者が使っていた、伝説の剣だっ! ふははははははは…」
「…兄ちゃん、わかったから、そろそろ降りてくれねぇか?」
「…ゴビリンさん、あいつ、馬車の屋根の上で、何やってるんですか?」
「そんなこと、私に聞かれても…なぁ、キャット。またお前の幻影の魔法だよな?」
「そうですにゃ。」
「ふははははははは…どうだ、これが勇者の剣だっ! ふははははははは…」
「…兄ちゃん、もうわかったから、降りてくれねぇか? そろそろ次の店に行かなきゃならねぇんだよ…」
「ほら、キャット、問屋さんが困ってるぞ? どうするんだあれ?」
「大丈夫ですにゃ。そのまま出発しちゃってくださいにゃ。そのうち魔法が解けて降りてくれるか、その前に転げ落ちるか、どっちにしても気にすることにゃいですにゃ♪」
「そうですね、キャットちゃんもこう言ってるし、このまま出発しちゃってください。また次の荷が入ったら、よろしくお願いします。」
「そうですか、それじゃ、まいどあり〜♪」
 ガラガラガラガラ…
「ふははははははは…オレは勇者だっ! 伝説の勇者だっ! ふははははははは…」
 …あいつ、やっぱりどこかで転げ落ちるかなぁ?


[115] ミニ小説(10) 投稿者:びっぐにゃん 投稿日:2012/04/27(Fri) 22:28  

武器の店・うり屋(10)

「…で、いつの間にか、こんなことになってたんだよ。」
「にゃははは♪ そうにゃんですか♪」
「なっ、面白いだろ? さて、そろそろうり屋へ行く時間だな。」
「にゃ? 今日も行くんですかにゃ? それに、いつもなら、コーヒーとオレンジジュースをもう一杯ずつ…」
「いつもいつも、コーヒー飲みながら閉店時間まで粘ってても、しょうがないだろ? ウリボーさんにも迷惑掛かるし。」
「おいらは、別に構いませんけどね…でももうちょっと…あと5分くらいでここを閉めて、うり屋のほうへ行くんで、それまでには…」
「あ〜、ウリボーさん、我々はもう十分いただいたから。それより、例のあれ、確か今日の便で届くとか…」
「今日届くかどうかは、問屋さんの都合もありますから…もし届いたら、すぐにでも作業に取りかかりますよ。」
「あれって何ですかにゃ?」
「ほら、キャット、こないだヘアピンもらっただろ? ウリボーさん特製の、防御の魔法が掛かってるとかいう、あれだよ。」
「はいにゃ。ありがたく使わせていただいてますにゃ。」
 そう言いながら、前髪をちょっと分けて見せるキャット。あ〜、そんなところに付けてたのか。でも、前髪に隠れて見えなくなってるって、ヘアピンとして機能していないような…?
「それで、私も冒険者のひとりとして、そういう装備もあったほうがいいかなって思って、ウリボーさんに注文したんだよ。」
「ゴビリンさんも、鮭のヘアピン付けるんですかにゃ。」
「違〜う! 私がこの頭にヘアピン付けて、どうするんだよ? そうじゃなくて、その鮭の飾り、ウリボーさんが言うには、それ魔法石の一種らしいんだよ。」
「へぇ〜、そうにゃんですかにゃ。わたしは、ただのかわいい飾りだと思ってましたにゃ。」
 繰り返しになるが、それをかわいいと思うキャットのセンスに、まず疑問を感じる。それと同時に、それをもらってからまだ何日もたっていないのに、防御魔法のことをすっかり忘れているキャットの記憶力にも、疑問を感じずにはいられない。
「それで、その魔法石を、ちょっとかっこいい形にけずって、私の兜に付けてもらおうと思って、取り寄せてもらってるんだよ。それが、今日の便で届くらしい。」
「今日届くかどうかは、まだ決まったわけじゃぁ…」
「あ〜、ウリボーさん、大丈夫だから。もし遅れたら、その時はその時で…そんなわけで、ここ早めに閉めてもらうことにして、今からうり屋へおじゃまさせてもらってもいいかな?」
 我々の他に客はいない。閉店間際に飛び込んでくるような冒険者はいないだろう。それ以前に、昼間っからこんなところで油を売っている冒険者も、我々くらいのものなのだが。
「おいらは構いませんけど…キャットちゃん、いいかな?」
「わたしは、オレンジジュースをもう一杯…」
「明日飲めっ!」
 ごちんっ!
「にゃっ!」
 両手で頭を押さえながら、何だか恨めしそうな目で、ジュースが置いてある台を見つめているキャット。私は2人分のコップを返却口へ返すと、キャットの腕をつかんで、ウリボーさんと一緒に厨房の奥へと進んで行った。


[114] ミニ小説(11) 投稿者:びっぐにゃん 投稿日:2012/04/27(Fri) 22:27  

武器の店・うり屋(11)

「それで、問屋さんの馬車は、いつ来るんだっけ?」
「もうそろそろ来る頃だと思うんですがね。時間が決まってるわけじゃないから、いつもこうして店番をしながら待ってるんですよ。」
 うり屋の店先で、私はウリボーさんとそんな話をしながら、いつ来るかわからない馬車を待つ。その横で、店の奥から勝手に持ってきた杖を振り回して遊んでいるキャット。
「あっ、あの人、また来ましたにゃ。」
 一瞬、馬車が来たのかと思ったが、あの人って…あ〜、またあいつか。
「よう、獣人さんよぉ。性懲りもなく、まだこんなシケた店やってやがるのか?」
 性懲りもなくくだらない言いがかりをつけに来たのは、いつの間にか知り合いみたいになってしまった、自称この町の影の支配者で、生物学上は恐らくチンピラ目チンピラ科に分類される生き物、個体名は点鱈。
「けっ、何だよ、こんな剣売りやがって。ホントに切れるのかよこれ?」
 店の奥から勝手に持ってきた剣を手にとって、構えて見せる。やっていることはキャットと変わらないが、こいつの場合は明らかに嫌がらせ目的だからなぁ…いつもいつもこんなことやってて、他に楽しみがないのか?
「勝手に触らないでくださいね。それは、お客さんからの注文品なんですよ。遊ぶなら、そっちの量産品の剣で、邪魔にならないところで遊んでてくださいね。」
 そう言いながら、点鱈のほうにさっと手を差し出すウリボーさん。なるほど、言われてみれば、点鱈が手にした剣は、陳列棚に並んでいる剣とは明らかに違う。刀身の輝き、剣の柄に施された細かい細工、その真ん中に付けられた赤く透き通った石は、恐らく攻撃力アップの効果を持つ魔法石だろう。私も誇り高き騎士のひとりとして、魔法効果を持つ剣のひとつも持ってみたいものだ。兜が完成したら、次は剣を注文してみるか。
「ほら、ウリボーさんが困ってますにゃ。あなたみたいな人が持ったら、大事な剣がさびますにゃ。ほら、早く返しにゃさい。」
 あ〜、キャット、またそんな挑発を…
「何だと、この猫っ! よしっ、この剣がホントに切れるかどうか、お前で試してやるぞっ!」
 キャットに向かって剣を振り上げる点鱈。でもキャットには、例の幻影の魔法があるからなぁ。そんな思いが、騎士として当然割って入らなければならない私の足を止めてしまった。
「にゃぁ〜〜…にゃぴっ!」
 キャットの目がぴかっと光る。それと同時に、点鱈が振り上げた剣もきらっと光る。次の瞬間…
「やぁっ!」
 ぶんっ! ぱっき〜〜ん! ぱらぱら…
 キャットの頭上に剣が振り下ろされる。それと同時に、何かかたいものが割れるような音がして、眩しい閃光が、私だけでなく恐らくその場にいた全員の目をくらませる。斬られた!? しかし、視力が戻った私が見たものは、振り下ろされた剣の前にへたり込むキャットと、その頭から落ちる数本の前髪だけだった。
「びにゃぁぁぁ!」
 何が起こったのかはわからない。しかし、わかることもある。今この瞬間に割って入らなければ、今度こそキャットは斬られる。私が腰の剣に手を伸ばしながら、点鱈の前に突進しようとした、その刹那。青白い光が私の目の前を横切った。
「うちの店の中で、おいらが鍛えた剣で、こんな事をされたんじゃ、黙って見ているわけにはいかねぇ。ゴビリン、ここはおいらに任せてくれねぇか?」
 私のことを呼び捨てにするそのしゃべり方。いつもの茶色から、輝く銀色に変わっている体毛。両手で構えるのは青白く輝く槍。10年前の記憶が瞬時によみがえる。ウリボーさん…いや、ウリボーと呼ぶべきか。点鱈の鼻先に槍を突きつけながら、静かに、しかし怒りを込めた口調で、ウリボーは言い放つ。
「おいらがこの槍を持つのは10年ぶりだからな。加減を間違えるといけねぇ。どれでもいいから、好きな鎧をひとつ選んで、表へ出ろ、小僧。」


[113] ミニ小説(12) 投稿者:びっぐにゃん 投稿日:2012/04/27(Fri) 22:24  

武器の店・うり屋(12)

「けっ、武器屋のおやじが、ハッタリかましやがって。このオレを誰だと思ってやがるんだ。」
 口ではそう言いながら、店にあった一番良さそうな全身鎧を着込んで、最初からかぶっていた銅の兜を地面に転がして、店にあったフルフェイス型の兜をかぶる点鱈。剣を持つ手と両膝がふるえているように見えるのは、私の目の錯覚か?
「にゃっ…にゃにが始まるんですかにゃ…」
「あ〜、心配しなくても大丈夫だから。そこに座ってゆっくり…いや、すぐ終わるからよ〜く見てろよ。それより、ケガはないか?」
 怯えるキャットを、念のため、安全な場所に避難させる。あの時は本当に斬られたように見えたが、こうして近くで見ると、どうも切れたのは前髪だけらしい。これなら治療の必要もないだろう。
「その鎧なら、死ぬようなことはないと思うが、あとはお前自身の運の良さと日頃のおこない次第だな。さて、覚悟ができたら、かかってこい。」
「う〜…行くしかないか…でやぁぁっ!」
 だっ!
 剣を振り上げて、ウリボーに向かって突進する点鱈。その姿を冷静に見つめながら、さっと槍を構えるウリボー。さて、ここからだ。他の冒険者と比べても決して引けを取らない私の動体視力が、これから起こる事実をどこまで正確にとらえられるか…
 ぱぱぱぱぱぱぱぱんっ! がきぃっ! くるくる… ごとんっ!
 一瞬、首が飛んだように見えた。ウリボーの槍が最後に突いたもの、それは、点鱈がかぶった兜の真ん中の飾り、その一点だった。頭からすっぽ抜けてはじき飛ばされた兜が、回転しながらきれいな円弧を描いて、地面に落ちる。
「なっ…何だ、今のはっ!」
 血の気が引いて、蝋人形のようになった顔をしながら、それでも剣を構えなおそうとする点鱈。しかし…
 ばらららっ… ごとごとごとごとっ!
 点鱈が着込んだ全身鎧が、そのパーツごとに分解されて、地面に落ちる。私の動体視力をもってしても、全くとらえられなかったウリボーの槍。兜を突く前に何度か突いたのは、全身鎧のつなぎ部分だったのか。点鱈の鼻先に槍を突きつけて、鋭い眼光で睨み付けるウリボー。何を言おうとしているのか、奴の頭でも恐らくわかるだろう。
「おっ…覚えてやがれっ!」
 剣を放り出して、後ろも振り返らずに逃げ出す点鱈。もう追う必要はないだろう。
「10年たっても、腕は衰えていないようだな、ウリボー…さん?」
 私の目の前にいたのは、いつもの茶色の毛とやさしい瞳に戻った、食堂と武器屋の店主、ウリボーさんだった。
 ガラガラガラガラ…
「ちわ〜っす、問屋で〜す。今日の荷をお届けにあがりました〜。例の魔法石も、入ってますよ〜。」
「はいはい、いつもお世話になっております。あ〜、これが魔法石ですね。ゴビリンさん、今日中に作業を始めますから、その兜、置いていってくださいね。あ〜、問屋さん、その箱はこっちへ…」
 いつものウリボーさんと同時に、いつもの平和なうり屋も戻って来たらしい。


[112] ミニ小説(13) 投稿者:びっぐにゃん 投稿日:2012/04/27(Fri) 22:24  

武器の店・うり屋(13)
「そういえば、キャットには、まだ話してなかったな。」
 うり屋の店先。問屋さんが置いていった空箱を逆さにして、その上に腰をおろす我々3人。ウリボーさんが出してくれたコーヒーを片手に、我々には懐かしく、キャットには新しい、そんな話を始める。
「あれは今から10年前の話…いや、パーティを組んだのはその前だから…ウリボーさん、我々がパーティを組んだのって、いつ頃だったかな?」
「塔に挑戦したのが、パーティ結成3周年記念も兼ねてたから、13年前ってことになりますかね。」
「あ〜、そういえば、そうだった。その13年前から、我々3人は、一緒に冒険をしていたんだよ。」
「にゃ? 2人じゃにゃくて、3人だったんですかにゃ?」
 まぁ、何も知らないキャットが疑問に思うのも、無理はないだろう。
「騎士の私、槍戦士のウリボーさん、それに、いろんな武器と簡単な魔法を使いこなしていた、魔法戦士のモヨヨンさんの3人だ。もっとも、当時は、お互い呼び捨てにしていたがな。」
「へぇ〜、モヨヨンさんっていう人も、いたんですかにゃ。」
 初めて聞く名前を耳にしたような反応をするキャット。おいおい、まさか、もう忘れたのか?
「キャット、お前、モヨヨンさん知ってるだろ?」
「にゃ?」
 ウリボーさんが、フォローを入れてくれる。
「ほら、今は、冒グルの事務局長をやってる、あの人だよ。」
「にゃっ! あの恐い事務局長さん、昔は冒険者だったんですかにゃっ!」
「そりゃそうだろ。冒険のことを知らない人が、冒グルの事務局長になれるわけないだろ?」
「それは、そうかもしれませんけどにゃぁ…にゃんか、イメージが違うっていうか…それを言ったら、ウリボーさんもそうにゃんですけど…」
「まぁ、2人とも、冒険者を引退してもう10年になるからな。でも、3人とも、シーレーンの塔をクリアした、立派な殿堂入り冒険者なんだよ。本来なら6人パーティで挑戦するシーレーンの塔に、誰が言い出したんだか、パーティ結成3周年記念に、補助役も回復役もなしで、3人だけで挑戦しようっていう話になってな。2人死んでも残ったひとりが死体を持ち帰って、教会で復活させればいいなんていう、バカなノリで塔に乗り込んで…あの頃は私も若かったからな…無鉄砲な勢いだけで、本当にクリアしたんだよ。」
「シーレーンの塔って、あのシーレーンの塔ですかにゃ?」
「他にそんな塔があるなんて聞いたことないから、多分、そのシーレーンの塔だと思うが。」
「皆さん、そんなすごい冒険者だったんですかにゃ…」
「まぁ、すごいって言えば、そうかもしれないな。今も、冒険者の殿堂の入り口に建てられた石碑に、我々の名前が刻んであるから、そのうちつれていってやるよ。」


[111] ミニ小説(14) 投稿者:びっぐにゃん 投稿日:2012/04/27(Fri) 22:23  

武器の店・うり屋(14)

「そんなわけで、我々は、冒険者としてひとつの大きな目標を達成したんだが…まぁ、なんて言うか…次の目標が見つからなくてな。今にして思えば、あの塔の冒険が、我々にとってのゴールだったんだろうな。今の時代、邪悪なドラゴンも魔王もいないからなぁ。そのへんにいる野良モンスターを倒すくらいなら、殿堂入りの3人が一緒に行動する必要はないだろう?」
「それは、そうかもしれませんにゃぁ…」
「そんなわけで、塔から帰った我々は、酒を飲みながら一晩じっくり話し合って、ひとまずパーティを解散することにしたんだよ。そして、モヨヨンさんは後進の指導のために冒グルの職員になった。ウリボーさんは子どもの頃からの夢だった武器屋を始めたんだけど、すぐには利益が出ないから、料理の特技を生かして冒グルの食堂の手伝いもすることにした。そして私は、他にやりたいことがなかったから、ひとりで冒険者を続けることにした。その時から、別々の道を進むかつての仲間を尊敬するってことで、お互い『さん』付けで呼ぶことにしたんだよ。それから10年、3人はそれぞれの道を歩み続けて、今に至っているわけだ。」
「そうだったんですかにゃ…」
 その10年の間に、モヨヨンさんは冒グルの事務局長に昇進した。ウリボーさんは、既に話した通り、2軒の店を立派に取り仕切っている。私は、騎士として成長したのかどうか、自分でもよくわからないのだが、シモンと神父とパーティを組んで、いつの間にかキャットがついてくるようになった。
「さて、私が話せるのは、ここまでだ。私は、魔法のことにはあまり詳しくないからな。あとはウリボーさん、解説してくれるか?」
「はいはい、いいですよ。」
「あの時、キャットは、どうやって助かったんだ? 私には、剣で斬られたように見えたんだが?」
「あ〜、あれは、キャットちゃんにあげたヘアピンの、隠された力が発動したんですよ。」
 そう言われて、少し切れてしまった前髪を両手でかき分けるキャット。その表情が、さっと曇る。
「にゃぁ…なくしちゃいましたにゃ…」
「キャットちゃん、それは、なくしたんじゃなくて、役目を終えて消えたんだよ。あの魔法石には、持ち主の身に危険が迫った時、身代わりになってくれるっていう効果があってね。ほら、あの時、魔法石が砕けたのに、気付いたよね?」
 そういえば、あの時、ものすごい閃光と同時に、何かかたいものが割れるような音が聞こえたが…あれは、そういうことだったのか。
「にゃぁ…鮭のヘアピン…わたしの身代わりに…ぐすっ…」
 キャットの目にじわ〜っと涙が浮かぶ。
「あ〜、泣かない、泣かない。また作ってあげるから。ほら、ちょうど、ゴビリンさんの魔法石が届いたから、あれを半分削って。」
「おいおい、ウリボーさん、それはないだろう? キャット、ヘアピンは、また今度にしろっ!」
「ゴビリンさん、冗談に決まってるじゃないですか。ヘアピンの材料にする魔法石の在庫くらい、うちの店にもありますよ。」
 なんだ、そうだったのか…ウリボーさん、人が悪いんだから…
「そういえば、何であの時だけ、キャットの魔法が効かなかったんだ?」
「さぁ…にゃんでですかにゃぁ…」
 点鱈が落としていった剣を拾いながら、ウリボーさんがキャットの代わりに解説してくれる。
「あ〜、それは、この剣に付いている魔法石の効果ですよ。これは、攻撃力アップの魔法石ですけど、魔法石は時々、相手の魔法を無効にすることがあるんですよ。あ〜、でも、この剣、ちょっと刃こぼれしちゃってるなぁ…あいつが乱暴に扱うから…あとで磨き直さないと…」
「こっちの、バラバラになっちゃった鎧と、飾りのところがへこんだ兜は、どうするんですかにゃ?」
「あ〜、それは、こうやって、こうすると…」
 ウリボーさんが、鎧の部品と兜を拾い集めて、両手でこねこねっといじり回したかと思うと…
「ほら、直った。」
 ウリボーさん…やっぱり、ただ者じゃないな?


[110] ミニ小説(15) 投稿者:びっぐにゃん 投稿日:2012/04/27(Fri) 22:22  

武器の店・うり屋(15)

「それより、ゴビリンさん。こんな大きな魔法石を注文しちゃって、大丈夫ですか? おいらを通さずに、問屋さんに直接注文したみたいですけど。」
 そう言いながら、届いた木箱を開けて見せてくれるウリボーさん。箱の中には、グレープフルーツくらいの大きさの、青く透き通った石がひとつ。石を傷つけないように、すき間に綿が詰めてある。
「う〜ん、思ったより大きいな…これを兜に付けるのか…あんまり重すぎるのも困るんだが…」
 そんなことを、ぶつぶつ言いながら、届いたばかりの石を手にとってみる。やっぱり、ちょっと重いな…首が痛くなりそうだ。
「そりゃ、防御力が100上がる魔法石ですから、このくらいの大きさになりますよ。ゴビリンさん、本当に大丈夫ですか?」
「まぁ、ちょっと重すぎるから、そこはウリボーさんの腕の見せ所ってことで、魔法の効果を減らさないように上手に削ってもらって…」
「それは構いませんけど、おいらが心配してるのは、こっちの方で…」
 四つ折りにして箱のフタに貼り付けられていた、1枚の紙。それをウリボーさんから受け取って、広げてみると…
『請求書 ゴビリン様 金300000ゴールド 魔法石1個の代金として 武器問屋』
「なにっ! この石ころ、3万ゴールドもするのか!」
「ゴビリンさん、3万じゃなくて、30万ですよ。大きい魔法石は、滅多に採れないから、お値段もそれなりに高いんですよ。キャットちゃんのヘアピンに使うくらいの小さい石なら、10ゴールドもしないんですけどね。」
 30万ゴールド!? この石ころが!?
「それなりに、じゃないだろう? とんでもない高額商品じゃないか!」
「このサイズの魔法石ですから、相場としてはそのくらいか、どっちかっていうと安いくらいですよ。」
「にゃははは♪ ゴビリンさん、えらい買い物しちゃいましたにゃぁ♪ そんなお金、払えるんですかにゃ♪」
 この猫…人ごとだと思って、笑いながら言いやがって…
 ごちんっ!
「にゃっ!」
「払えるわけないだろ? ウリボーさん、悪いんだけど、これ返品ってことで…」
「ゴビリンさん…言いにくいんですけど…魔法石は、手に入れるのが難しいアイテムですから、返品はできないんですよ…」
「そんなこと言われたって、30万なんてどこにあるんだよ? 何とか返品できるように、なっ?」
「だから、最初から、おいらに話を通してくれたら、こんなことにはならなかったんですよ。だいたいの値段や、買ったら返品できないってことも、教えてあげられたのに。」
「今さらそんなこと言われても…返品がだめなら、ほら、ウリボーさんの力で、注文の取り消しとか何とか…武器屋のコネで他の店に引き取ってもらうとか…在庫としてうり屋に置くとか…」
「にゃははは♪ ゴビリンさん、焦ってますにゃぁ♪ もうこうなっちゃったら、いさぎよく30万ゴールド払うしかにゃいですにゃ♪」
「お前は黙ってろっ!」
 ごちんっ!
「にゃっ!」
「なぁ、ウリボーさん、何とかしてくれよ、頼むよ…」
「そう言われましても、おいらにはどうすることも…」
「そんなこと言わずに、なっ? 一緒に冒険した仲じゃないか、な、なっ?」
 陽が傾きかけて、ちょっと涼しくなってきた、うり屋の店先で、何の進展もない我々の押し問答は、いつまでも続いたのだった…
 
−終わり−

 こんな話ですにゃ。気が向いたら、感想など書いていただけると嬉しいですにゃ♪


[109] ミニ小説(1) 投稿者:びっぐにゃん 投稿日:2012/04/27(Fri) 22:21  

 わたしの駄作「武器の店・うり屋」の続編っていうか、外伝っていうか…そんな感じのショートストーリー、文字通り「ミニ小説」ですにゃ。

スーデ・ソウの杖(1) 作:にゃん

「…で、結局、私がそれを引き受ける羽目になっちゃったんだよ。」
「にゃははは♪ そうにゃんですか♪」
「私にしてみれば、笑い事じゃないんだけどな…さて、私はコーヒーをもう一杯…」
「あっ、わたしも、オレンジジュースのおかわりを…」
 ♪ピンポンパンポ〜ン
「冒険者様のお呼び出しをいたします。キャット様、キャット様、お近くのインターホンをお取りください。繰り返します。キャット様、お近くのインターホンをお取りください…」
「にゃ?」
「ほら、キャット、呼ばれてるぞ。え〜っと、インターホンって、この食堂にあったかな?」
 ここは、キッズの町にある冒険者支援グループ、略して冒グルの食堂。私は誇り高き騎士ゴビリン。一緒にいるこいつは、魔法猫のキャット。相変わらずこれといってやることもない我々は、こうして昼間っから食堂でコーヒーを飲みながら、どうでもいい話をして暇つぶし…もとい、次の冒険に備えて英気を養っている。
「キャットさんですね? インターホンは、こっちですよ。」
 食堂の店員さんが気を利かせて、カウンターの向こうから手招きしてくれる。コック長のウリボーさんは、もう次の店に行ったんだっけ。もう閉店時間は過ぎているのに我々がいつまでも居座っていて、店員さんも困っているのかもしれないが。
「ほら、キャット、早く出ろよ。」
「はいにゃ。でも、誰が何の用事なんですかにゃぁ…」
 首をかしげながら、カウンターの切れ目から、中へ入っていくキャット。今まで全然意識していなかったが、カウンターの向こう側、入ってすぐのところの壁に、インターホンがあった。
「はいにゃ、わたしですにゃ……にゃ?……にゃぁ?……にゃっ!……ぎにゃぁ!……ぎにゃぁぁぁ!」
 当然、キャットの声は、ここまで聞こえてくるんだが…キャット…誰と何の話をしてるんだ…?
 がちゃんっ! どたばたどたばた…
「ぎにゃぁぁぁ! 試験にゃぁぁぁ! うり屋さんにゃぁぁぁ! にゃぁぁぁ! ぎにゃぁぁぁ…」
 慌てて戻ってきて、何やら意味不明な鳴き声をあげるキャットの頭に、私は黙ってこぶしを振り下ろす。
 ごちんっ!
「にゃっ!」
「いいから、わかるように話せっ!」


[108] ミニ小説(2) 投稿者:びっぐにゃん 投稿日:2012/04/27(Fri) 22:21  

スーデ・ソウの杖(2)

「…つまり、今日、魔法使いの実技試験を受けることになっていたのを、すっかり忘れていた。練習なんか全然していないから、このままだと試験に落ちてしまう。だから、うり屋で強い魔力を持った杖を買って、それを使って試験に合格したい。そういうことだな?」
「そうですにゃ。」
 私の鉄拳制裁で、少しは落ち着きを取り戻したキャットから、だいたいの話を聞き出した。確認のため、もう1回キャットに聞いてみたところ、どうやらここまでは間違いないらしい。
「その試験は、何時から始まるんだ?」
「12時半ですにゃ。」
 食堂の午後の営業時間は、とっくに終わっている。もう1軒の店「うり屋」へ行くウリボーさんを見送った後、我々はこうしてコーヒーを…おいっ、今、何時だ?
「とっくに始まってるじゃないかっ!」
「そうですにゃ。だから、館内放送で呼ばれたんですにゃ。」
「自慢げに言うことかっ! だったら、杖なんかどうでもいいから、今すぐ試験会場に行けよっ!」
「そうはいきませんにゃ。さっきもお話しした通り、わたしは練習にゃんて1回もやってにゃいんですにゃ。このままじゃ、落ちるに決まってますにゃ。だから、うり屋さんですっごく強い杖を買わなきゃいけにゃいんですにゃ。」
「だから、自慢げに言うな、そんなことっ!」
「もう時間がありませんにゃ。ゴビリンさん、一緒に来てくださいにゃっ!」
 勝手な事を言い放って、私の返事も聞かずに厨房の奥へ駆け込んで行くキャット。しょうがない、一緒に行ってやるか…
「あっ、お客さん、困りますよ。コック長がいない時は、勝手に厨房に入らないでください…」
 店員さんのそんな声も、キャットの耳には届かないらしい。仕方なく、私も厨房の奥へと進む。
「はいはい、ごめんなさいね。あいつひとりで行かせるわけにはいかないんで…」
 食糧倉庫の入り口あたりでキャットに追いついた私は、そのまま奥のドアを抜けて、うり屋に到着した。


[107] ミニ小説(3) 投稿者:びっぐにゃん 投稿日:2012/04/27(Fri) 22:21  

スーデ・ソウの杖(3)

「…つまり、今から魔法使いの実技試験を受けるのに、練習なんか全然してない。試験に落ちるのは嫌だから、うちにある一番強い魔法の杖を持って、試験に合格したい。そういうことなんだね、キャットちゃん?」
「そうですにゃ。」
 ついさっき、私がしたのとおなじように、まずはキャットの話を聞いて、確認を取るウリボーさん。ある時は食堂のコック長、またある時は武器屋の店主。二足のわらじを見事なまでに履きこなしている。
「でもね、キャットちゃん。試験っていうのは、自分の実力で受けるものだよ。杖の魔力に頼って、結果だけ合格だったとしても、それはキャットちゃんにとって、本当に魔法使いとして合格したことになるのかな? そのへんのことを、よ〜く考えてごらん?」
「よ〜く考えてる時間にゃんて、にゃいんですにゃ。もう試験は始まってるんですにゃ。今すぐ強い杖を持って行かにゃいと、不合格になっちゃうんですにゃっ!」
「あ〜、ウリボーさん、今のキャットにそんな話をしても、無駄だと思うぞ。」
 そんな事は、食堂でも、ここに来る間にも、私がキャットに話して聞かせた。でも、聞いたもんじゃないんだよなぁ…
「…そうか、わかった。じゃぁ、これを使うといいよ。」
 半ば諦めたような表情のウリボーさんは、そう言いながら、店の奥に入って行って、すぐに戻って来た。その手には、1本の杖。細長いピンクの柄の先に、ピンクの丸い板のようなものが付いて、その板の真ん中には金色の星の絵が描いてある。まぁ、杖は杖なんだが、どちらかと言うと、お子様アニメに出てくる魔女っ子が持つような、魔法のステッキといった感じがする。
「これは、スーデ・ソウの杖っていう、強力な魔力を持った杖だよ。あのカシナートの剣と並び称されるほどの…キャットちゃん、カシナートの剣は、知ってるよね?」
「にゃんですか、それ?」
 刀匠カシナートの名を受け継いだ、カシナートの剣…冒険者なら誰でも知っていて、戦士系の冒険者なら一度は持ってみたいと考える、あまりにも有名な剣。しかし、それを手にすることは、それほど難しいことではない。理由は簡単。刀匠カシナートが1本1本魂を込めて鍛え上げたその剣は、決して刃こぼれすることがなく、剣として消耗してしまうことはまず考えられないから。量産品ではないが、買おうと思えばそのへんの武器屋で500ゴールドくらいで買えるし、引退を考えているベテラン剣士の知り合いでもいれば、ただで譲ってもらうことも可能だろう。うり屋にも、確か4本か5本、在庫があったはずだ。まぁ、そんな有名な剣なんだが…キャット、知らなかったのか…勉強不足にも程があるぞ…


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